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怪談・夢語り2「お友達になって-1」

お友達になって.タイトル画像

                    作. 茜 梨生


 ―――浅い眠りは

 意識を幽世(かくりょ)へといざなう。



 怪談夢語り、第2話。

 たぶんこれも

 夢の話である―――。



      1. 孤島の老婆

 その日は、朝9時過ぎにはすでに気温は30度を超えていた。

 明け方まで仕事をして、日が昇りきったころ家にたどりつき、倒れるように眠りにつく。
 疲れているのにやたら夢ばかりみる。
 眠っているのに、半ば意識がある半覚醒状態は、夢と現実の境界線が、薄霧の日の地平線のように曖昧模糊としている。

 仕事の続きの疲れる夢をひとしきり見た後――
 暑くて寝苦しかったせいか、夢の世界はやがて海辺へ移った。

 夢の砂浜に寄せる波は、およいでみなよ、気持ちがいいよ、と誘う。
 どうせ夢だから、泳いでみたところでひんやりともしないのだろうが……
 などと考えながら眠っているのだから、かなり眠りは浅いのだろう。

 ともあれ、気休めでもいいから涼みたくて、私は海で泳ぎだした。

 ……おや、思いのほか清涼感がある。
 もちろん思い込みにすぎないのだが、嬉しくなってどんどん沖へ泳いで行った。

 泳ぎには自信がある。

 遠泳専門だが、海で6キロ泳いだこともあるので、夢であっても自信満々である。時々潜ってみたりもするが、息が苦しくなる事もなく(当然だ)、私はまるで羊水の中を漂うように、ゆるゆると泳ぎを楽しみ続けた。





 しばらく泳ぐと、小さな島が見えてきた。
 少々泳ぎ疲れたので上陸してみる。




 また夢の砂浜。


 確かに砂浜の上に立ったのに――

      体はまだ ふわふわとして
      足元が頼りない




        な に か 変 だ




 変じゃないよ、夢なんだから




戻れっ!!




 ……誰の声?


      返事はない。




 島には雑木林があり、
 林の小径を進むと開けた丘に出た。
 丘の頂上に、

   小さなログハウスが1軒建っていた。




 他人の家だから入っちゃいけない
 ―――と、思いつつも、
 私はなぜかズカズカと上り込んでいってしまう。

 板張りの床に壁、
 白木のテーブのセット……
 白いレースのカーテン。



 「わあ、すてきな部屋!」



 勝手に上りこんだ後ろめたさと、
 家の主が帰ってくるのではないのかという恐怖心。
 それらより、
 目の前に出現した理想の部屋を
 楽しみたいという欲求が勝っていた。



      入っちゃいけないのに……



 部屋を一通り見てまわった。
 南に面したサッシの外は、ウッドデッキになっているようだ。
 サッシを開けデッキに出て、籐の椅子に腰掛けてみる。
 林の向こうの白い砂浜と、紺碧の海が望めた。

 汐の香を吸い込みたくて、深呼吸してみる。

 すると……
 予想外な、花の香りが溢れ返った。



      入っちゃいけないのに……



 「こんにちは、かわいいお客さん」

 背後からの声にびっくりして振り返ると
 花束を持ったやさしそうな老婆が、柔らかく微笑みながら開け放したままのサッシの所に立っていた。

 「あの! ご、ごめんなさい! 勝手に上り込んでしまって。な、何で私こんなことしてしまったのか……」

 「いいのよ、気にしないで」




      ―――老婆はにっこりと優しく私に笑いかけた。



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